養鶏農場Rooster 徳光康平

北杜市武川町にある「養鶏農場Rooster」では、約800羽の鶏たちが鶏舎の中を自由に駆け回っている。
手間のかかる平飼いで愛情を持って鶏たちを育てているのは、農園主の徳光康平さんだ。
徳光さんは元パンクロッカーであり、かつては東京で活動していたが、現在は北杜市で養鶏をする傍ら、狩猟、畑、米づくりなどにも勤しんでいる。
「寅さんみたいな人が生きていける北杜市であって欲しい」と語る徳光さんは、どのような理由で北杜市で養鶏を始め、日々何を感じているのだろうか。

まず、Roosterでやっている養鶏の特徴を教えてください。

「Roosterでは、僕がDIYで建てた鶏舎で鶏を平飼いしています。日本では、放牧の卵は鶏卵流通全体の4%未満(畜産技術協会調べ)と言われていて、狭いケージの中で鶏を飼うスタイルがほとんどなのですが、Roosterの鶏たちは自由に動き回ることができます。健康的に運動して、北杜市産の無農薬の野菜をおやつに食べて育った鶏たちが産む卵は、やっぱり美味しいです。臭みが全くない、スッキリとした甘さのある卵になります。」

徳光さんは、なぜ養鶏を始めようと思ったのですか?

「僕はもともと東京でパンクバンドをやりながら、アパレル店員をしていました。僕がちょうど地元の大分に帰っていたときに東日本大震災があって、帰ったら東京が真っ暗になっていて…。僕は震災を経験しなかったから全く現実味が湧かなかったんですけど、みんながピリピリしていて、電気を使うのが悪として見られたり、買い占めが横行したり…。そんな様子を見ていたら、電力会社や行政の所為にしなくていいライフスタイルが欲しいなと思ったんです。そんなときに図書館で一次産業の本を読んで、これってすごく意味あることだなと感じて、自分でやってみようと思いました。」

養鶏をする場所として、どうして北杜市を選んだのですか?

「バンドは続けたかったので、東京近郊で場所を探していて、知り合いづてに人を紹介してもらえたのが北杜と横須賀でした。初めて北杜に来たときに、初夏の八ヶ岳の匂い、音、肌から伝わる感覚がまるで違うと感動してしまって。それに、鉄砲で大物猟をしたかったということもあり、北杜に来ることを選びました。」

実際に北杜市に来てみてどうですか?

「田舎の人たちは自然との距離が密接ですよね。この花が咲いたらそろそろこれをしなきゃねとか、春になるとのそのそとみんな畑に出てきたりとか、日が延びてくるとウキウキしたりとか、そこに人間の本能的なものがあるような気がします。

もちろん北杜にも、自然への感度が高い人もいれば、お金への感度が高い人もいます。でも僕は、判断基準がお金になる・ならないではない方が、退屈しないと思うんです。お金のためにやっていたら、周りにあるものが似たようなものばかりになってしまう。

人も同じで、北杜には生活の中で何かが溢れてこっちに来ることを選んだ個性のある人が多いと思うので、そういう人たちを均一化しようとせず、いいところを認めていけるといいですね。寅さんみたいな自由人がいたっていいじゃないですか。北杜にはそんな懐の広いまちであってほしいです。」

徳光さんの思う「大切なもの」とは?

「僕は昔、音楽で生きていくと思っていました。でも北杜に来てすぐの研修期間にイギリスツアーをして、『今が自分の音楽キャリアのピークだな』と感じたんです。人生をかけて音楽をやっている本場のパンクスたちの姿も目の当たりにして、僕は本気で音楽をやるのはもうやめようと思いました。残りの人生は、楽しく過ごせたらそれでいいと思ったんです。

だから金持ちになりたいとかルースターを大きくしていきたいとかいう野望があるわけではなくて、家族とおいしいご飯を食べて、友人と楽しくお酒を飲んで、たまに海釣りに行ければ、それでもう満足です。生き物を飼っていると長期間農場を離れることはできないけれど、別にもうどこにも行かなくてもいい。今みたいに、Roosterの卵を好んで買ってくれる人がいたり、たまに友人家族がキャンプに来たりしてくれることが、今の僕にとって何より大切なことです。」

最後に、徳光さんが今後Roosterでやりたいことを教えてください。

「Roosterにもっと人を呼べる環境を整えて、みんなで集まって楽しく過ごす中で、鶏の飼育の様子を見てもらったり、音や匂いを感じてもらったりできる場所にしていきたいです。その経験があることで、普段鶏肉を食べるときに少しでも『あの鶏を食べているんだ』って思ってもらえたらと思います。

世の中の多くの人が肥満や生活習慣病を抱えているような状態で、フードロスをどんどん出すのは、面白いことではないはず。Roosterに来ることで少しでも、普段当たり前になっていることに疑問を向けてもらえたら嬉しいですね。

これからも興味の赴くままに楽しいと思える農業をやって、誰かを巻き込んでいけたらと思います。」